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#リテールAI

生成AIは小売をどう変えるか? トライアル流・新しいテクノロジーとの向き合い方(後編)

トライアルグループ広報
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トライアルグループの広報チーム

前編ではそもそも現在流通業がどのような環境に置かれているか、またそれに対してトライアルがどういった姿勢で課題に取り組んできたかを紹介した。後編では「生成AIは小売をどう変えるか?」の本筋となる生成AIへの向き合い方について、各章になぞって触れていく。

前編はこちら

第3章:生成AI活用の道筋

本章では、そもそも生成AIはこれまでのAIと何が異なっているのか、どんな新しい価値を生むのかという解説をしている。AIという概念が初めて登場したときも大きく世間を沸き立たせたが、「生成AI」がここまで注目されているのは「 これまで研究者が苦労してきた、『膨大なデータを学習して、人間のような自然なアウトプットを可能にする』ことができるようになった」という点が大きいと考える。これまでのAI活用では、下流タスク※は基本的に 1 つしかなく、しかもゼロショット学習やフューショット学習などといった汎用的な対応もできなかったため、局所に特化したモデルを作らざるを得なかったという課題が、生成AIの登場によって解消するかもしれない。

生成AIの活用にあたり、トライアルグループでは主に2つのアプローチを考えている。1つ目は、OpenAI社のAPIを利用する方法である。我々が同等の汎用性能を持つモデルを独自に開発するには巨額の投資を要するため、十分なパフォーマンスが得られるのであれば、既存のサービスを積極的に利用したい。しかし、既存のサービスを活用だけではできることが頭打ちになった際に、その先の発展を検討することが困難で他社との差別化を見出せなくなってしまう恐れがある。そのため、独自の基盤モデルを自分たちで生成することも、一方では検討しており、われわれ固有の要件と、即座に利益を得られる利便性のバランスを取りながら活用することが、現時点でのAI活用戦略の核と考えている。

※下流タスク…機械学習における訓練の工程で、事前学習済みモデルを新しいタスクに向けて追加学習すること。また、それを元に推論すること。

トライアルグループの生成AI活用の道筋

第4章:「ナッジ」の重要性

ナッジとは行動経済学における考え方の一つだ。人々の選択や意思決定に関する概念で、相手を自然に特定の行動に導くことを指す。

東京都八王子市の取り組みを例にあげると、大腸がん検査の受診率改善にあたり、A群には「大腸がん検診を行うと来年も検査キットを送る」と伝え、B群には「大腸がん検診を行わないと来年度はキットを送れない」としたところ、B群の方が受診率は高くなったという。 このようにちょっとした仕掛けやコミュニケーションの工夫で本人の行動変革を促すのがナッジ理論の考え方だ。

このナッジ理論がどう生成AIと絡むかというと、コミュニケーションの分野に効いてくるのではないかと思っている。トライアルでは自社のリテールテクノロジーに生成AIを導入し新たなシステムをつくる検討が目下なされているが、その一つに「生成AIを導入したスタッフ用ハンディ端末」の構想がある。人同士のコミュニケーションというのは非常に難しく、同じアドバイスや指摘でも言い方や当人たちの関係性によって会話の結果が大きく異なってくるが、そこを生成AIに担ってもらってはどうかという考えだ。

例えば週末の忙しいスーパーマーケット、上司Aは部下Bへ「商品を補充して」などの指示を行うとする。すると部下Bはどこかで”上司にやらされている”という気持ちになることもあるだろう。しかし上司Aは店舗内の様々なセクションに指示を出さなければいけないので、依頼を遂行してくれた部下をタイムリーに褒めるなどのアフターフォローができない状況に陥ってしまう。

これを生成AIが行うと、指示出し自体がフラットに行えるとともに、行動へのフィードバックも端末上で即時に実施できる。それは褒めることもあれば「こうすればもっとよくなります」というアドバイスもあるかもしれないが、AIによるコメントを返すことで本人が自発的に行動を変えやすくなるのではという見立てだ。

AIによるアドバイス→ポジティブなフィードバック→行動変容のサイクルが作れれば大きな変革になる。この仕組みにナッジを上手く取り入れていくのが肝だ。


第5章:DX実現に欠かせない「エコシステム」

これまでテクノロジー活用による未来への期待の話をしてきたが、どんなに優れた構想や技術があっても、それを組織全体に浸透させないことには始まらない。仕組みと併せて組織文化や体制・構造の様々な見直しも行っていく必要がある。トライアルでは物流・卸・メーカーなど自社を取り巻くあらゆるパートナーと手を組み、福岡県・宮若市に共同研究の場を設けている。技術を前に進めることももちろん、足元の課題も各社で共有・議論することでエコシステムの構築を目指している。

エコシステム

おわりに

本書で伝えたい大きな概念は「やらなければ何も進まない」ということである。デジタルをはじめとしたあらゆる変革において、それ相応の変化やストレスは不可避であり、そこで二の足を踏んでいる間にあっという間に世間は変化していってしまう。トライアルとしても生成AIについてはまだまだ勉強することだらけだが、臆せずまずは飛び込んでみることで、意外な発見が見えてくるのではないだろうか。